Web アプリケーションを開発するプロジェクトで、ワイヤーフレームとか、あるいは、モックアップやプロトタイプなんかを作ってクライアントにレビューしてもらっていると、クライアントがじーっと何かを考えはじめて動かなくなることってありませんか。ここをこうさわるとこうなって、なんて一連のインタラクションを説明して、これまでの打ち合わせで確認してきた要求はこれで満たせますでしょうか、いかがでしょうか、って段になると、じー。
これでいいですか?って判断を求められたクライアントが何に思いを馳せて固まっているのかというと、たいていは、実際の利用シーンを総まくり総点検中ってかんじじゃないかと思うんですよね。じー、の後は、じゃ、こういう場合はどうなるの? いや、実はこんな人がいてね、それで、こんな事情があってね、なんて話になることが多い。
こちらは、はい、その場合はですね、画面の操作はこうなってこうなります、これは、ユースケースでいえばここの部分にあたりまして、概念モデルのこれに関する操作です。で、その流れを詳しく記述したのが、こちらのシーケンス図になるんですけど、それは以前ご説明させていただいたとおりです。なんてやっちゃう。
しかし、これって、ナントカ図、ナントカ図っていろいろ書いてみるんだけど、結局、あるべきシステムのイメージのおおもとをちゃんと見える化できてないってことなのかも知れないなあ、なんて最近よく思うんですよね。
ユースケースにしたって、概念モデルにしたって、それらは要求を分析して実装の要件を把握するためのツール、ある観点、水準でのシステムイメージのビューのひとつにすぎないわけで。みんなそれぞれに有用ではあるんだけど、これでいけるかなって最後の判断を下すときに参照したくなるような、なんというか、おおもと感がない。全部を総合したとしても、たぶんそれは出てこないでしょうね。
そう考えてみると、おおもと感のあるシステムイメージそのものはクライアントにしろ、われわれにしろ、各自がめいめいに勝手に思い浮かべてるだけなんですよね。それなのに、その派生物のほうはなぜか目に見えて共有されてもいるっていうこの状況、ちょっと倒錯してるようななかんじがしますね。
もう、面倒だから、今、クライアントがじーっと考えていたイメージのほうを先に書いとこうぜ、って言いたくなってきます。ユースケースがそれにもっとも近いんだろうけど、もっと生々しいかんじでしょう。
たとえば、あー、これだと総務の鈴木さんみたいな人が使うにしては、操作がちょっとややこしいかもなあ、なんかボタンも小さくて目立たないしなー、なんかこのままじゃ、ぶーぶー言われそうだなーなんて、漠然とにしろ、その鈴木さんという人の日々の仕事ぶりを思い出しながら、オフィスで彼がこの画面に向かっている場面を心のうちに思い描いてるんじゃないかと思うんですよね。
なら、素直にまず鈴木さんの利用シーンの想定をみんなで共有して、それから鈴木さんに喜ばれるにはどうしたらいいかってことで設計を進めたほうがいいんじゃないか。
そうすれば、じーっとする代わりに、鈴木さんの利用シーンが描かれたシナリオを追いながら、ワイヤーフレームやモックアップ、プロトタイプで示されたインタラクションが、本当にこれでいいのかって点検していけるわけですから。
って、それが、つまり、ペルソナ/シナリオ法なわけですよね。
わりと、ペルソナって言葉がバズっぽく一人歩きしている感がありますが、むしろ強調されるべきは、シナリオを書くってこと、シナリオドリブンでプロジェクトを動かしていくことなんじゃないかと思います。
質的なユーザー調査の結果を何人かのペルソナというかたちでまとめたら、各ペルソナが一体どんな状況の下でどんなゴールに向かって活動するのか、そこにこれからデザインするものがどう関わっていくのかを端的で短い物語にしてみる。
インタビューからペルソナを作るまでの一連の作業においては、実はこれからデザインするもののことを考えないこと、それをいったん魔法のツールXとして措いておいて、その周囲、Xがすっぽりハマるコンテクストを探ることに専念する、そうした禁欲的な態度でのぞむところにコツがあったわけですけれども、シナリオを書く段階にはいって、やっと、これからデザインするもののことを考えられるようになるわけですね。
そして、
●シナリオを分析することでニーズ=要件が定義されます。
●シナリオからユースケースや概念モデルが抽象され、実装設計に対するインプットとなります。
(この点は About Face 3 では触れられていないんですが。)
●シナリオに適合するようにしてシステム全体のインタラクションがデザインされます。
●そうして出来上がったものは、シナリオによって品質がチェックされます。
というわけですから、まさにシナリオ重要。です。
About Face 3 流ペルソナ/シナリオ法では、目的別に大小さまざまなタイプのシナリオを書きます。コンテクストシナリオ、キーパスシナリオ、チェックシナリオとあって、チェックシナリオが、キーパスバリアント、必須パス、エッジケースの各シナリオに分かれて。
それぞれ、実際、どうやって書くけばいいものなのか興味のあるところなんで、ここのところは細かく刻んで、ちょっと丁寧にノートにしていこうかな、と思ってます。あと、シナリオとユースケースの違いとかもちゃんと考えてみようかな、なんて。
しかし、このペースでは、About Face 3 一冊フォローするのに、一年くらいかかっちゃいそうな気がしてきた。
まあ、いいか。
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