2009年3月18日水曜日

それはバルーンヘルプなのか?ツールチップなのか?

About Face 3 読書ノートの7。

バトコンって知ってます?ツールバーなんかに並んでるアイコンつきボタンのことをバトコンっていうそうです。

あんなの今までたんにアイコンだと思ってましたが、GUI部品としての振る舞いや役割はどちらかといえばボタンなんですね。でも、スペース効率や視認性をよくするために、テキストラベルではなくアイコンを用いてる、ってわけで、GUI部品の種別とそれぞれの特徴に神経質になると、純ボタンとも純アイコンとも言い難いようです。

それはともかく、で、このバトコンの上にマウスを合わせて一瞬だけ待つとバトコンのテキストラベルや機能の短い説明が表示されます。ツールチップですね。

これ、マイクロソフトが考えたそうですが、辛口な About Face 3 も、インタラクションデザインの発展に貢献することの少ないマイクロソフトにしては珍しく、これはいいアイディアだった、みたいなことをいって高評価なんですね。

先行する似たようなものに、バルーンヘルプがありました。こっちはアップルの発案なんですが、非常に評判が悪かったそうで。

両者の違いのひとつは、反応時間なんですね。ツールチップには表示されるまでに一瞬の間がある。この間があるんで、ふつうにクリックするぶんにはツールチップは表示されない。バトコンの存在も、それをクリックするとどうなるかもわかっている人にとって、ツールチップは存在しないも同然。

一方、バルーンヘルプのほうはオンマウスでただちに表示されちゃう。だからバルーンヘルプの表示を有効にしておくと、その気がなくてもどんどん開いちゃってうざくてしょうがない。

そして、その違いは、両者の存在理由をめぐるもっと大きい違いに根ざすというんですね。

アップルはバルーンヘルプで初心者にバトコンの意味を教えようとしたのに対し、マイクロソフトは、ひさしぶりに使ってバトコンの意味をうまく思い出せない人のために、ツールチップでヒントを与えようと考えたんだと。

バトコンをクリックしようとして、マウスをバトコンの上にもっていったんだけど、でもそこでためらって、いやちょっとまてよ、これでいいんだっけ、なんて思うその一瞬をみはからってツールチップを表示しているって、いやあ、芸が細かいですね。

そして、ツールチップ派のそういう発想がどこから出てくるのかというと、次のようなバトコン観。

バトコンというのは、いってみればメニューバーの特定の項目へのショートカット。それは、アプリケーションが提供する機能のラインアップをひととおり了解している中級者以上の人の便宜のためのUIなんであって、それをバルーンヘルプまで使ってくどくど初心者に説明する必要はない。

見た目にフレンドリーだからって、なんでも初心者向けだと思うのは短絡で、むしろ、まだ学ぶ段階にある人はメニューバーを使うもの。なぜなら、たいした脈絡もなく、たんによく使われるからという理由だけで並べられたバトコン群に比べれば、テキスト中心のメニューバーのほうが論理的で説明的であり、いちはやく初心者扱いから脱したいユーザーにとっては、こっちのほうがよっぽどフレンドリーだから。

まあ、そんな話が書いてあって、いやあ、なるほどなーと。やっぱりオンマウスのバルーンヘルプってアホだなー、アハハなんて笑ってました。

そんな折、ユーザーサポートをきっかけに、この話に近接するような自分の失敗が明るみに出まして。

ある語学の e ラーニング教材で自分の発音を確認するための録音機能を作ったんですけど、録音する際の UI がトランシーバー風とかいって、マイクのアイコンにマウスカーソルをポイントしてマウスダウンし続けている間、録音状態が継続、マウスアップすると録音終了ってやつで。

これ、録音開始/終了の操作がシンプルになるし、ボタン押しながらしゃべるっていうと、気持ちを集中して吹き込むって感じが強くでて、いい具合だったんです。

でも、UIとしては一般的ではない。使いこなすには学習が必要ってわけで、マイクのアイコンにオンマウスで表示されるバルーンヘルプをつけたんですよ。

でも、そうすると、録音開始のたびに一瞬ちらっとバルーンヘルプが見えてうざい。そこで、ツールチップ風にちょっとタイミングをずらそうと。

って、これが、まったく何を考えていたんだか、本当にバカのしわざです。

はじめから、オンマウスマウス状態で待ちかまえてヘルプが出てくるのを期待する人なんていないっての。上に書いたような一瞬のためらいにおけるツールチップ体験があって、その後、見知らぬバトコンに対してその意味を知るためにそうすることはあるにしても、少なくともここではありえない。

それに、一見してよくはわからないけど、アイコンにはたしかにマウスを持っていきたくなるようなアフォーダンスが備わっている場合、たいてい最初のトライはクリックですよね。間違ってもオンマウスではない。

で、クリックってのはこの場合、非常にクイックな録音開始と終了の連続指示、つまり一瞬の録音、ユーザーにしてみりゃ何も起こらなかったってことなんですよ。クリックに対してユーザーに有意義なフィードバックが何もない状態。バルーンヘルプが一瞬でも表示されていたほうがまだましだった。

そんなわけで、クリックしても何も起こらない、というクレームが寄せられたというわけでした。

やるなら、録音時間が一定の長さ未満で、ユーザーがクリックしてしまったとおぼしき場合にバルーンヘルプを表示すべきでしたね。

いや、常時表示のテキストでふつうに説明しておけばいいだけだった。

ああ、これCD-ROMで売ってるんで、今の在庫がはけないと直せないいんですよね...。

もちろん、ユーザーテストが十分じゃないためにこういう失敗を発見できなかったという失敗でもあるんですが、でも、バルーンヘルプとツールチップを比較しながら両者の成り立ちを学んだ今なら、そもそも、こんなアホな失敗はけっしてしないと思います。


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