ユースケースドリブンで開発プロセスを回すのはいいんだけど、インタラクションデザインまでユースケースに基づいて考えちゃうと、どうしても全体的に上級者向けってかんじのインターフェースになりかねない。というのが、About Face 3 の警告。
「すべての可能な選択肢に平等なチャンスを与える実装モデルソフトウェア」になってしまうといっています。
インタラクションデザインは、実装モデルよりも、ユーザーの脳内モデルにこそ忠実であるべきなのにってね。
ユースケース図やユースケース記述って、システムの機能要件を漏れなく数え上げて、システムの姿=実装モデルを表現することには非常に長けているんだけど、たとえば、ふだん一番よく使われる機能だとか、逆に上級者だけが使うオプショナルな機能だとかの仕分けをするのには、あんまり向いてない。
いや、アクターを分けたり、コメントで補足説明をていねいにつけてあげればできないことはないけど、なんというか、作図法自体がそういう発想を誘発することがないというか。
一方で、ですね。
開発の現場の外からプロジェクトに関わってくる人たち。クライアント、営業/マーケティング担当者、エグゼクティブのみなさん。彼等は、初心者のことばっかり考えている。
彼等は、まだちゃんと存在していないデザイン対象に対して、まず自分自身が初心者だし、また、外部の初心者に向けて売り込まなければいけない立場だったりするので、初心者のつまづきに非常にセンシティブにならざるをえない。
最初のとっかかりこそが命ってわけですね。ユーザーがやがて中級者になり、その一部は上級者にまでなる、といったような、デザイン対象とユーザーとの長いおつきあいのことはあまり意識されない。
そうしたユースケースドリブンな現場と重初心者主義のビジネスが融合、というか、野合して、結局、全体としては上級者向けのインターフェースの上を、いつまでも人を初心者扱いする謎のイルカがわがもの顔で泳ぎ回ることになっちゃう。つまり、中級者を疎外するようなデザインになっちゃうんだと、About Face 3 はいいます。
ほとんどのユーザーは、そのデザイン対象物とともにする大半の時間を、中級者として過ごすはずなのにね、と。
About Face 3 によれば、初心者、中級者、上級者のユーザー像は次のようなかんじです。
初心者は、概念的な利用イメージを求めている。おおまかにいって、何ができるのか、どうすればいいのか、逆に、できないことは何なのか、まずはそれを知りたがっている。
中級者は、もうそうした概念的な利用イメージはつかんでいる。主だった機能がわかりやすい場所にちゃんとあってさえくれればもう困らない。でも、ところどころで、特に普段あまり使わないような機能については端的なヒントやヘルプが必要。
上級者は、すばやい操作やアクセス、合理的で無駄のない処理、自分専用のカスタマイズを求めている。そのためになら脳内モデルを実装モデルに合わせることも辞さない。
たしかに最初はみんな初心者なんだけど、永遠に初心者に留まって馬鹿扱いされたいと思うやつはいないし(「ウィザード、まどろっこしい!」)、また、上級者になっても、すこし離れていれば、かんたんに中級者に戻っちゃうもの(「えーと、あれ?これってどういうことなんだっけ?」)。
極端にいえば、ユーザーとは永遠の中級者なのだ、とまで言い切ってます。
そして、だったら、インタラクションデザインっていうのは、中級者をターゲットの中心に据えて行われなければいけないんじゃないか。
しかーし、上で述べたように、その中級者ってのが、従来の開発プロジェクトのあり方では、なかなか捕まえにくい。捕まえられる体制になってない。方法がない。
そこで、ね、ゴールダイレクテッドなアプローチを採用しなさいよ、と、こうなるわけです。
ところで、このぶ厚い本、ユーザーのゴールやニーズを捉えるための技術はたくさん書いてありますけど、ユーザーの特性みたいなことをまとめて考察している部分って、実はこの中級者の話のとこだけなんですよ。
だから、ここ、結構ポイントなんだと思いますよ。ゴールダイレクテッドデザインって、疎外され続けてきた中級者(ふつうのユーザー)を救うための福音のつもり、ってとこがあるんじゃないでしょうか。
中級者ダイレクテッドデザイン。
ただ、この話、アプリケーションみたいなものにおいてはその通り!ってかんじなんですけど、Webサイトのデザインだとちょっと違うのかもな、ってところがあります。(About Face 3 もその点に触れています。)
でも、それはまた、エントリーを改めて。
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