2009年8月27日木曜日

Webサイトにやってくる初心者と中級者

About Face 3 読書ノートの 18。

アプリケーションのインタラクションはおもに中級者向けにデザインすべしってのが About Face 3 の教えでした。質的なユーザー調査からペルソナ/シナリオを導き出すのは、デザイン作業に伴走してくれる中級者像を固定するためだといっても、そんなに的はずれではないはずです。

About Face 3 は、Webサイトのデザインにおいても、だいたい同じようなものだと考えてよい、といっています。ただし、Webサイトは、公共施設やショッピングモールの場内案内を行うキオスク端末に似たポスチュアを持つことを忘れてはならない、とも断っています。

ポスチュアというのは、ユーザーとの関係のしかた、みたいなことですね。ワープロや表計算ソフトのように、使われるときはユーザーの意識のほとんどを占有する支配者的なポスチュアとか、デスクトップ常駐ソフトのように、基本設定を行うとき以外は姿をあらわさないデーモン的なポスチュアとか。ポスチュアのそうした典型例のひとつに、通りすがりの一期一会として利用するような、キオスク端末的なポスチュアってのがあります。

ポスチュアがどうなのかによって、インタラクションデザインのあり方も大きく変わってくるわけですけれども、中級者ダイレクテッドであれ、って、いわゆる支配者的なポスチュアを持つものを念頭に置いた場合の話だと思うんですね。

だから、About Face 3 が、Webサイトデザインも中級者ダイレクテッドでいいっていうからには、それは支配者的なポスチュアを持ってるってことになるでしょう。にもかかわらず、キオスク端末的なポスチュアも持っていることを忘れるなという。たしかに、まあ、そう言われてみるとなんとなくわかるような気もするこの二面性は一体なんなんだ。

About Face 3 では、それ以上詳しく触れてませんが、たぶんこういうことだと思うんですよ。

ブラウザのインターフェースから各サイトが提供するナビゲーションシステムまで込みで、なにしろ次から次へと画面を書き換えていく操作、その水準では、あきらかに支配的なポスチュアが立ち現れている。ここには中級者向けのデザインが必要。

でも、そうして訪れるのは、結構な割合ではじめて見るサイト、ひょっとしたら前にも来たっけ?みたいなサイト。ここには何があってどんな体験ができるのかなって、その意味では、キオスク端末的なポスチュアだといえる。ここには初心者向けのデザインが求められる。

ということは、サイトデザインを、ナビゲーションシステムのデザインと、サイトの目的とユーザーのニーズがどこでマッチするのかをユーザーによりよく伝えるためのコミュニケーションデザインとにいったん分けてですね、前者は中級者向けに、後者は初心者向けに考えろっていうことになるんじゃないか。

初心者、中級者の双方にそれぞれそんなデザイン上の配慮が必要なのかは、前のエントリーに書いたとおりですけど、初心者に重点をおくなら、システムの脳内モデルをユーザーが獲得するまでをまず手厚くフォローしろってことになりますね。

一方、中級者向けには、もう脳内モデルはできている前提で(この前提をちゃんと立てるのが難しいんですけどね)、その脳内モデルにできるだけ寄り添って、あるべきものをあるべき場所で提供すればいいということになります。

まず、Webサイトのコミュニケーションデザインは初心者向けにってほうですけど。

これは、一見さんを捕らえて離さないためにはってことを第一に考えて、タグラインやウェルカムメッセージをつくるとか、セクションの構成の仕方とグローバルナビゲーションのラベルのつけ方を工夫するとか、トップページ、エクストラメニュー、フッターメニューで何をフィーチャーしていくのか決めるとか、そういったことになりますね。

Webアプリの場合で考えてみても、たとえば webメールみたいなのは、About Face 3 が中級者ダイレクテッドデザインで想定しているアプリケーション像そのまんまだと思いますけど、いわゆるジェネレータものとか、一発芸的なものは、やっぱりキオスク端末的なポスチュアを持つことになるんで、脳内モデルづくりに注力することになりますよね。

中級者ダイレクテッドデザインでは、過度な重初心者主義が中級者の邪魔立てをしないようにっていうのが重要な注意事項なんですけど、サイトのコミュニケーションデザインが初心者偏重でも、中級者 ― ここではサイトに頻繁に繰り返し訪れる人、リピーター ― の邪魔になるようなことはあんまりないんじゃないかと思います。

それは、この場合の脳内モデルづくりのサポートのほとんどが言葉を使った表現の問題で、手続きや操作として提供されるわけではないからでしょうね。まあ、あるとすれば、ウェルカムメッセージのFlashが毎回うざい、とかくらいかな。

つぎに、ナビゲーションシステムのデザインは中級者向けにってほう。

こっちは、あるべきものをあるべき場所でってわけですから、要するに奇をてらわず慣習に従え、ってことになりますよね。

クリッカブルであることを明示する方法からはじまって、グローバル、ローカル、リモート、ブレッドクラム、エクストラなどの様々なナビゲーションの配置やページネーションとか、だいたいやり口はもう決まっている。

About Face 3 では、そういう慣習をイディオムって呼んでますね。たしか「誰のためのデザイン」のA・ノーマンはポピュラーなプロトタイプって呼んでたはずです。また、「デザイニング・インターフェース」がデザインパターンとして収集しているもののうちのほとんどもこうした慣習ですよね。

そういうのは、淘汰されずに生き残ってきたという意味で、大多数のユーザー
の脳内モデルに寄り添っていると考えて間違いないわけです。

にもかかわらず、カタログに載っていない新しいデザインをあえて採用して、なおかつハナから中級者向けであろうとするためには、中級者の脳内モデルを探る旅に出なくてはなりません。って、そうだ、それが質的なユーザー調査やペルソナ/シナリオ法なんですよね。

と、以上、ずいぶん当たり前なことをくどくど言い直してるみたいなかんじになってしまいましたが、でも、こんなふうにどういうわけでそうなっているのかを改めて辿ってみて意識化しておくと、まあ、きっといいことがあると思うんですよ、あとで。

そういえば、About Face 3 のやつ、ゴールダイレクテッドデザインは、コンテンツ中心のWebサイトのデザインにはあまり必要とされないのかも知れない、とかいうんですよ。

ぼくはそんなことはないだろうと思ったんですが、ひょっとすると About Face 3 はサイトデザインのうちでもナビゲーションシステムのデザインだけを見てそういったのかも知れないな、と、今、思いました。この世界では中級者向けイディオムがもう充分にカタログ化されちゃってるしね、なんて。でも、コミュニケーションデザインのほうは、脳内モデルへの接近がテーマなんだから、やっぱり必要ですよね。


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